自分は将来どんな年寄りになるのだろう…年取るのはイヤだなぁ…、そんな気分を吹き飛ばしてくれる漫画「傘寿まり子」。
ヒロインのまり子をはじめ、ゲーマーおばあちゃん、オシャレと女に命をかけるおばあちゃん、力強く生きるトランスジェンダーおばあちゃんなど、個性豊かな熟女たちから勇気をもらえるコミックです。
1.「傘寿まり子」について
著者は漫画家のおざわゆき。
高校生のとき少女漫画誌でデビューし、両親の戦争体験を描いた「凍りの掌 シベリア抑留記」「あとかたの街」で新人賞や日本漫画家協会大賞を受賞しました。
「傘寿まり子」は、周りの高齢者が昔より元気で若いことを知り、パワフルなおばあちゃんを描きたくなったのがきっかけ。
この作品は2018年、講談社漫画賞を受賞しています。
ベテラン作家のまり子は80歳。
夫とは死別しましたが、一軒家で息子夫婦、孫夫婦と同居しています。
息子の嫁とは折り合いが悪いものの、気付かないふりでやり過ごす日々。
そんなとき作家仲間のひとりが、家族と同居しているにも関わらず孤独死するというショッキングな出来事が。
わたしたちは長く生き過ぎてしまったのか?と自問自答するまり子。
同じころ、嫁夫婦と孫夫婦の間に住居問題が持ちあがっていました。
自分が家族のお荷物になっていると気付いた彼女は、リュックを担いで家出を決意します。
家出したものの高齢者では家を借りれず、ネットカフェで寝泊まりするようになったまり子。
そんなとき、声が出ずに鳴けない黒猫、クロと出会うのでした。
●受け入れる覚悟
“私は弱者になりたかったわけじゃない。
だけど弱者になることは悪じゃない。
自分がその立場になったら、こう思えばいい。
弱者の自分を乗りこなせ”
クロと住む部屋を借りるため家族の署名が必要になるも、息子が首を縦に振ることはありませんでした。
書類が風に飛ばされ、まり子が慌てて追いかけているとき、バックして来た車に衝突してしまいます。
夢か現実か、さんずの川を渡し船で漂うのですが、クロを思い出したまり子は櫂(オール)を奪い、引用文を叫んで岸へ戻ろうとします。
高齢者=弱者を認めることで、前へ進もうという覚悟が感じられて好きなシーンです。
●ピンチをチャンスに変えるとき
“橋がなくなってしまったら、自分からかければいい”
本が売れない時代。
その余波はまり子にも直撃し、彼女が長年執筆してきた文芸誌からリストラを宣告されてしまいます。
ゲーマーおばあちゃんとの出会いで創作意欲に火が点いていたまり子は、ショックを隠し切れません。
そんなとき、スマホで読めるネットだけの漫画雑誌を知り、彼女はひらめきます。
“橋がなくなってしまったら、自分からかければいい”という引用文はそのときのセリフです。
これまでは文芸誌という橋があったから、自分は作家でいられた。
ならば、ネットで文芸誌を作ればいい。
簡単な道ではないですが、まり子は進んでいきます。
ピンチを切り抜ける気力、有言実行するフットワークの軽さに感動で涙を禁じ得ませんでした。
2.まとめ
傘寿(さんじゅ)とは、80歳のことをいいます。
まり子の魅力は、若者や若者世代にも理解があること。
スマホやネットを取り入れて、Twitterで人探ししたり、インスタグラムでネット文芸誌の宣伝をしたり。
数々のピンチを切り抜けていくまり子の姿は、私もこんな風に年を取りたいと思わせてくれます。
傘寿まり子は、現在8巻まで出ています。(2019年2月現在)